百貨店、実験中。| 松屋創業150周年 特設サイト

松屋は、150周年をきっかけに、 生活を豊かにするお手伝いを、 たくさんの実験を通して考えます。 多少のやんちゃはご勘弁を。 どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。

若手が「1日バイヤー」になる。Vol.1

2019.11.05

ものづくりの現場を訪ねると、日々の仕事に変化は生まれる?

百貨店の仕事といって思い浮かぶ職種のひとつに、「バイヤー」があります。現地に足を運び、品定めをし、商談をして、売場にモノを並べる。小売の醍醐味のような仕事ですが、実はバイイングに携われるクルーは、あまり多くありません。松屋ではこの度、「ものづくりの現場」をあまり目にすることのできない若手たちに旅をさせてみたいと思います。WEBで何でも手に入る時代。私たちクルー自身も、産地や工房から遠ざかっていたかもしれないから。クルーたちは、向かった先で何を得てくるでしょうか。社内公募で集められた、初々しい「1日バイヤー」たちが、日本全国へ旅に出ます。

婦人雑貨売場を抜け出して、旅に出る。

普段は店頭で接客や販売に勤しんでいるクルーが、1日だけバイイング業務の一環として、作り手のもとを訪ねる本企画。記念すべき1回目は、婦人二部の伊勢田京平です。

 

伊勢田が訪れたい場所として挙げたのは、「WABISABISM」という帽子のブランドを立ち上げている水沼ハット。

なぜそこを選んだのか、理由を尋ねると、

「1年半ほど前に、松屋銀座で“ジャパンクリエーションミュージアム”という催事を開いた時に水沼さんとお話しをしまして、ものづくりに対する熱量がハンパない印象を受けたんです(笑)。そこまで情熱を注いで帽子を作られる現場を、一度、見てみたいと思っていたんです」と語る伊勢田。

彼は、かつて、松屋銀座の人気催事である「GINZAの百傘会」に携わった際に、新潟の傘工場へ商談に行ったことがありました。その時に「どんな場所でモノが生み出されるのかを、お客さまにもっと知ってほしい。そのために、まずは自分も学ばなければ」と思ったそうです。けれど、それ以来、なかなか出張に恵まれず、ものづくりの現場に足を運べずにいたそう。今回、ようやく願いがかない、埼玉県蓮田市にある水沼ハットへ、意気込んで向かいました。

木型製作から完成までを一人の職人で。

迎えてくださったのは、代表の水沼輝之さん。

今回は、伊勢田が自らの帽子をオーダーし、それを水沼さんと一緒に作らせてもらいながら、帽子作りへの想いを伺います。

水沼さんは、世界でもあまり類を見ない、木型製作から完成までを一人の職人で行うという帽子づくりを行われる方。一般的には、木型を作る職人がいて、それを用いて生地をあてがう職人がいるという分業制です。

帽子づくりの世界で腕を磨いていった水沼さんは、次第にその製法に疑問を感じたのだと語ります。

「昔のオーダーの帽子は、その人の頭のかたちで型入れをしませんでした。既存の木型に、既存の帽子をあてがって生地を伸ばしていただけなんです。だから、最初のかぶり心地はいいけれど、時間が経つと違和感を感じるようになります。『このデザインで私の頭に合う帽子を作ってよ!』と依頼されても、帽子職人は作ることができなかったんです」

水沼さんは決心します。前職が建設業だったこともあり、木材の扱いには慣れている。自分にも木型を作ることはできそうだ。それならば究極のフルオーダーを作ることができるはずだと。

 

木型から成型までを一人で手がけられる水沼さんは、当然、他の帽子作家とは明らかに異なる形の帽子を生み出すようになります。下の写真の帽子はキャップのように見えますが、実は一枚のフェルトを木型にはめて伸ばし、立体的に成型したもの!

ニット帽に見えるけれど、それもまたフェルトを巧妙に伸ばしただけという商品もあります。(写真右下の商品)

最近の自信作は何ですか?という伊勢田の質問に対し、水沼さんは、

「松屋の創業祭の150展に出品した、江戸切子の文様を凹凸に成型させた帽子です。めっちゃくちゃ難しかったです(笑)」と答えてくれました。

いかに売るかだけを考えてしまっていた。

水沼さんの帽子づくりへの想いをひとしきり聞いた後は、ついにショップの奥にある工房へ。この日、伊勢田はフェルトの生地伸ばしを体験しました。

 

工程は企業秘密なので、あまり詳しく語ることはできないのですが、ひとことで言うならば、筋肉痛になりそうな作業でした(笑)。

 

蒸気で柔らかくなった生地を、暖かいうちに伸ばさなければならないという、パワーとスピードを必要とされる仕事。

 

まだ、最初の工程を終えただけでしたが、伊勢田はヘトヘト……。

この後も、水沼さんは丁寧に、帽子づくりとは何ぞやを、伊勢田に体感させてくださいました。

 

翌日、帽子は無事に完成。

誇らしげにかぶる伊勢田に感想を聞いたところ、

「まずは、ひとつの帽子を作るのに、こんなにも手間と時間、そして熱量をかけているのだということを、身をもって実感しました」とのこと。

 

水沼さんに言われて身が引き締まったこともあるとか。

「『お客さまに良いモノを提供するには、百貨店クルー自身が正しい知識を持っていないといけない』ということです。僕自身、帽子について学んできたつもりなのですが、水沼さんから教わったことは、全然、ネットには載っているようなものではありませんでした。ネットショッピングを利用する人が多い時代ではありますが、本当に良いものは、WEBだけで探すのは難しいのではと、リアルショップの価値を改めて実感しました」

 

伊勢田は、「モノを売る」という本質的な部分についても考えさせられたと、水沼さんの言葉を反芻しながら答えます。

「『手渡した後のことまで考えるのが、ものづくり』とおっしゃったんです。水沼さんの帽子は、かぶる時だけじゃなく、飾って愛でるところまでをデザインされている。アフターサービスも徹底されたりと、モノを大事に愛してもらうことを考え尽くしています。これは、まさにネットでは提供しづらい部分ですよね。百貨店として、大事にし続けなければいけない姿勢だと思いました」

最後、伊勢田に「水沼さんの熱量は、やっぱりすごかったですか?」と尋ねると、「それはもう(笑)」という答えが。

「印象的だったのが、帽子のことを話す時の水沼さんの顔でした。とても楽しげで、本当に帽子を愛しているんだなと。それと、江戸切子をモチーフにした帽子をもう一度作ってと言われたら、やってくださいますか?と水沼さんに尋ね時に、水沼さんは『怖い』とおっしゃったんです。そのぐらい、常に高度なチャレンジをし続けているんだと。だからいいモノが作れるし、技術も上がり続けるんだと思いました」

ものづくりにかける、作家自身の熱い想いに直接触れられた伊勢田。「もしかしたら、これまで自分は、『いかに売るか』だけに執着してきてしまい、商品に対しての『愛』が希薄になっていたかもしれない……」と、自分を振り返っていました。

 

売場のモノを見ているだけでは、わからないコトがある。婦人二部・伊勢田による、二日間の小さな「旅」は、百貨店クルーとしての、大きな学びの旅になりました。

■伊勢田の学び

・百貨店クルーは、ひとつの商品にかける「時間」「手間」「熱」を知らなければならない。

・お客さまに良いモノを提供するために、まずは自分が学ばなければならない。

・手渡した後のことまで考えるのが、ものづくり。

・何のために働いているのかを、忘れない。(伊勢田の場合は、「商品を通じて、お客さまを喜ばせたい」)

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